労働紛争センター座談会

労働紛争センター座談会(開催日:2017年5月25日)

(参加者:水谷賢弁護士、舩越啓孝弁護士)

1. 労働事件の相談を受けるにあたって,心がけていることは何ですか?
2. 当事務所における労働相談の専門性とは何ですか?
3. 個別労働紛争以外の組合事件等における工夫や心がけは何ですか?
4. 依頼者の負担として大きいこととそれに対して弁護士としてできることは何ですか?
5. 労働事件の相談を積極的に受けるための工夫は,どのようにしていますか?
PT:まず労働事件の相談を受けるにあたって,心がけていることっていうのを教えていただきたいのですが。先に舩越さんから。

舩越(以下「F」):労働事件の相談にあたっても心がけていること…。結局その私が受けている労働事件っていうのが、だいたい残業代であるとかパワハラとかセクハラだとかいう問題が多いので、やっぱり一番問題なるのが証拠の問題だと思っています。相談を受けた時にはそれを立証するものとしてどんな証拠があるかということを必ず聞くようにはしています。

PT:残業代なんかだとタイムカードだとかパソコンの記録とかそういったものですかね。

F:そうですね。

PT:水谷先生はどうですか。

水谷(以下「M」):結局、労働事件の相談というのは、時代や背景の変化によって相談内容も大きく変容してきているんですよ。以前は労働組合に関わる問題、つまり労働組合法に関わる問題、団体交渉等をめぐる問題が多かったけれども、ご存知の通り、非正規労働者が6割を超えて、正規の4割も労働組合の加入率は20数%まで下がってきた関係で、いわゆる労働組合が紛争当事者となる事件っていう相談は、激減していますね。
逆に言えば非正規の労働者、あるいは労働組合に加入していない労働者の事件、個別労働紛争が圧倒的に多くなってきているのがここ10年だと思いますね。端的にいえば雇用関係が非常に多様化して正規労働者が圧倒的に増えたということで、相談にくる人は労働組合に相談せずにいきなり弁護士に来るというフィルターを通さずに来るために、その相談内容がある意味で多様化しているということが、まず特徴として一ついえると思うんですね。
ちなみに私がこの2年間で担当して裁判になった事件は11件です。
そのうち残業代が5件、解雇事件が6件なんですよ。雇止めとか整理解雇とか含めた案件がほぼ半分ずつで、11件の裁判の内訳がほぼ半々、解雇関係と残業代関係です。つまり残業代が非常に増えてきている。解雇は昔からありましたけども、それを踏まえてどういう風な解決手法をとるかということですね。当事者間の団体交渉で自主解決することはもう不可能・困難なので労働審判あるいは訴訟提起になる。労働審判が11件のうち9件で、労働審判で敗訴になって訴訟に移行したというのが2件ですね。11件のうちで9勝2敗なので、勝訴率がかなりいいんですよ。そういうことから見ると、勝てる事件は審判や訴訟に乗りやすいけれども、逆にいうと審判や訴訟になってない勝てない事件は相当数あるということが言えると思う。つまりその解決の道筋を弁護士が助言をするということになると、舩越先生が言われたように、証拠の問題がかなり重要な問題なるということは全くその通りだろうと思います。したがって心がけていることは何かと言われれば、当然その残業代であれば、労働時間の立証をどうするかという問題だし、解雇事件であれば、解雇事由の正当性を覆す手段をどういう風に証拠収集していくかという問題が大きいということが、心がけるべき点かな。有利な証拠をどういう風にして収集するのかことになると思います。残業代について立証方法は件数を重ねるといろんなパターンがノウハウとしてかなり蓄積されているのではなかろうかと思いますね。

PT:残業代ということに関して特に社会的関心が高まっていると思いますけど、立証方法の多様化ということは、例えばどういうことなんでしょうか。

M:労働時間の管理の責任は、基本的に労働安全衛生法上、使用者にあると言われているんですけども、残業代の請求訴訟を起こす時に、(労働時間の)立証責任は原告にある。原告の立証について、立証責任が転換されないので、個別の労働時間をどうやって(立証)するのかというのは、タイムカードがないケースがほとんどなので、メモとか日誌とかないケースも多いのでメール、ラインそれからセキュリティ、企業にもよるけど、インターネットの社内メールの保存、それから同僚等の証言など多様化していると思いますね。

PT:最近は電子データが時間に紐付けされて残されることが多いから、立証には使えますかね。

M:ただ相談に来られる方は大企業ではなく中小零細(企業)の方が多いので、必ずしも出勤がデータ化して保存されているわけじゃないので、そこは非常に難しい問題が残ると思いますね。

PT:じゃあ次にいって、労働相談の専門性とは何かということですが、事務所で労働紛争センターを立ち上げていますが、どういったことを目的に立ち上げたんですかね。じゃあ舩越さん。

F:立ち上げ当時というのは、そのいわゆるブラックバイト、ブラック企業とかいうキーワードが広く話題になっていた時期で、弁護士に相談すべき事案というものが多いんだろうと。それを解決するということが弁護士の社会的役割であるということで労働紛争センターというものを作って、そこに集約しようということだったと思います。
M:それと2015年に後見センターが設置されたんですね。二年半前なんですけれども。その後に後見センターっていう後見の専門性だけじゃなしに依頼者のニーズは、詳しい弁護士とか経験のある弁護士とか専門性を求めているので、労働事件を個別バラバラで対応するのではなくて、もう少し集約して経験値を財産にしていくために労働紛争センター作ったらどうかということが立ち上げのきっかけだったね。

PT:実際センターを立ち上げてみて、これまでは労働事件が増えたとかではないですかね。

F:相談(件数)自体は増えている気はしないですね。

PT:個別労働紛争について、労働審判ができる前は訴訟になると、やっぱり組合等の手助けとかいうのが求められていたと思いますけども、労働審判が手段として登場してきているので、直接労働者からの相談を受けても、審判に持っていくことで、解決につながる事例は増えているんですかね。

M:統計的な数字までちょっと調べてないのでなんともいえないですが、体感的には労働相談は増えていると思います。したがってその解決の手法として労働審判の申し立てが増えているのは事実だろうと思いますね。パブリック全体でも。
専門性との関係で言うと、労働審判(期日)は3回しか開かないので、2回目が一番大事ですね。1回目は申立書と答弁書で、争点が決まったら2回目の労働審判期日までに主張立証を尽くさないと、それ以降の主張立証は全て却下されるので非常に注意をしなくちゃいけない。
F:事件解決のノウハウというのは、昔は組合が蓄積していたのですよね。
M:団体交渉で自主解決すること?
F:自主解決の落としどころだとかそのなんだかんだというノウハウをかったそうですね。
M:そうですね、詳しいですね。

PT:センターとして今後どういう事件というか、どういう方向性をもって、センターとしての機能を高めていくのかというあたりはどう考えますか。

M:やっぱり、事件が弁護士を育てて、依頼者が弁護士を鍛えるという側面があるので、相談件数を増やさないと専門性ってなかなか高まらないのではないかっていうのが、私の意見ですね。つまり専門性を(高めるために)教科書を読んだり判例を読んだりするのは、むしろ実際に受任・相談した事件を通して調べることがほとんどなので、やはり労働紛争センターの人の認知度高めるためには、相談をどうやって増やすかっていうのが一番大事かなという風に思います。

PT:舩越さんはどうですか。

F:過去2年の相談件数・事件を見ると、少なくともうちの労働紛争センターとしては、労働者側の立場に立って、事件解決っていうのが一つの方向性なんじゃないですかね。
M:僕は11件のうち、2件は使用者側(の代理人)です。9件は労働者側ですよ。
F:そうですか。

PT:使用者側の事件も排除しているわけではないですよね。

M:ないですけどね。これは依頼を受けた案件なので。
F:さっきの過去2年の案件、半分が解雇無効で半分が残業代ということである程度の定型性はあるところなので、ノウハウを蓄積してセンターしての専門性を高めるんでしょうね。

PT:まとめれば数をこなしていくということですかね。3番目の質問ですが、個別労働紛争ということ以外の例えば組合側からの事件を受けたりとかはありますか。

M:工夫や心がけていうのは、多分、不当労働行為を念頭に置いている質問なのかなと思うだけど、組合を結成した後の団体交渉とかいうのはなかなか労働組合全体の力が弱まっているのであまり表に出てこないですね。昔は労働組合を秘密裏に結成して旗揚げをして、労働組合の登録を岡山県に申請していくということは時々あったんですけどここ10年皆無ですね。組合を結成して何かをやるというスタイルはそういう動きが既存の組合の力が弱まっているからだと思いますよ。連合系にしても共産系の全労連系にしても。今一番流行っているのはユニオンですよ。ユニオンっていうのは個別加盟の労働組合です。つまり労働者が未払い賃金を請求する、あるいは解雇事件で戦う時に一人の個々の労働者が使用者と渡り合うことができないので、紛争が起きたら個人加盟労働組合に駆け足で加入すると。その受け皿がここのビル(本部がある勤労者福祉センター)の3階に2箇所ある。いわゆる岡山県労連という岡山地域労働組合っていうのと岡山地域ユニオンという二つの系統があって、そこに入ってやっている人って言うのは、この11件のうち5件ですね。そこに入ると、個人加盟労働組合は団体交渉をやるんですよ。未払い賃金だとか就業規則を見せろということから始まって。それで立証資料を提供させるんです。例えば今私がこの11件中で難件は2件あって、長距離トラック運転手、ドライバーなんです。ご存知の通り長距離トラックだからタイムカードはなくて、例えば東京に行って大阪で荷物を積んで、九州へフェリーで渡って九州で荷物を積んで岡山に帰る。こういう非常に長時間労働になりやすいトラック労働者の場合、タコメーターの解析から始まる。で、タコメーターを全部出させて解析するのは労働組合なんです。それを使用者と渡り合って労働時間の一覧表を作って計算していく。現代における個人加盟労働組合の果たす役割というのは、私は大きいと思います。相談者と弁護士が一人でやるのがしんどい時には、個人加盟の組合を紹介してそこに加入してもらうけれども、一人月3000円とかその組合費用がいるじゃないですか。組合に入ること自体が非常に難しい、権利を主張したいけど団体加入することを必ずしもよしとしない人ももちろんいるので、難しい問題はあるのだけれども個人加盟労働組合の役割は大きい。

PT:いわゆる全国的な労働組合組織の行うような不当労働行為を争うような事件は、ほとんどないけれども、個人加盟労働組合を通じて個別労働紛争の解決に、つなげていくということは今も行っている。

M:十分かどうかは別としてその役割は大きいですね。

PT:岡山の場合、勤労者福祉センター3階にそういう団体(受け皿)が二つあるっていうのはうちの事務所と連携しやすい理由ではあるんですかね。

M:まあそうですね。

PT:依頼者の負担として大きいなと感じることとか、弁護士がフォローできる事っていうのはどう考えますか。

M:それは報復でしょう。報復と不安。戦うことの怖さ、心配。権利を主張すること。

PT:それに対してはどう対処しますか。

M:組合加入を勧めます。加入を決断しないと前に進まないことが多い。使用者が労働者を叱責することや、あるいはいい過ぎることがあって、それが長時間になるとうつになったとか、精神疾患を発症することがある。労働相談に来られる方はいろんな意味でメンタルの問題も抱えているので、そこを注意することが、ここで言う依頼者の負担のフォローになると思うんですよ。

PT:舩越さんはどうですか。

F:(依頼者の)負担…。多分類型にもよると思いますけど、違法解雇の問題で解雇は違法だから自分はクビになってないという形で、労働審判なり訴訟で争ったとしても、実際にその職場に戻れるのかと言うとなかなか難しいので、争うのも戻るのも依頼者としてはしんどいのではないかなと思います。
M:さっきいった11件のうち5件が解雇事件だけど、1件は訴訟になっているけど、残りの4件は勝訴した全部職場復帰はしてないですよ。

PT:職場復帰という案件はなくて、結局金銭解決になりますよね。

F:なかなか戻りたいっていう本当の希望はかなえられないですね。

PT:そうですね。では証拠収集ということに関して、依頼者の負担はどういうことがありますか。

M:残業代賃金請求は2年で時効になる。そして実際やめてから相談に来る人が多いんですよ。退職してから未払い請求する、つまり在職中に賃金残業代の請求って一般的に難しくて、在職中であれば必ず始業時間・終了時間客観的に証明できる証拠、例えばメールで送るとか LINE で送るとか、やりやすいんですけど、退職してしまった後の未払い賃金の前提の立証というのはなかなか労働者の負担となかなか難しい問題があるので労働者にとって過酷な状況だと思います。労働審判だと客観的な資料なしでやることはありますけどね。

PT:証拠という意味では辞めてしまってから相談にこられると、なかなか指示ができないけれども、やめようと思っていて在職中に相談来ていただくといろいろと証拠の収集ができたりしますよね。

M:タイムカードをつけていても退職していたら、タイムカードのコピーができないので証拠保全でやったりすると、もちろん可能だと思いますけど、来月辞めるということを分かったらタイムカードのコピーっていうのは、当月分は出来るけれどもその前月分ができないですよね。何だかんだ理由をつけてなかなか使用者が渡さないんです。タイムカードがあると分かっていれば労働審判・訴訟を起こして向こうから提出させることは十分期待できるのでそれはいいと思いますけどね。

PT:写真一枚あるだけで違いますよね。

M:そうですよ。

PT:パワハラの証拠収集としては(依頼者の負担は)何かありますか。

M:パワハラ自体は、僕はあんまりないんだけど。

PT:僕一個あって叱責している部分が音声で残っているケースがあってそれを証拠でだしたら裁判官がガラッと変わって、態度・対応が。やっぱり現場を見てもらうっていうことが一番インパクトのある証拠で、今携帯電話も優秀ですから録音録画はかなり有力な証拠だと思いますね。

F:ですね。
M:整理解雇事件の一つはうつ病で整理解雇、相手が有名な企業なんですけど、カルテの記載の中に、このような暴言暴行を受けたとかが随所に出てきていたというのはありました。

PT:要するにお医者さんが丁寧に記録してくれていたということですね。あと何か言いたりないことありますか。

M:労働相談が受けられる体制作り、それを作れば一定の労働相談、労働審判に結びつきやすいわけですから、何て言うかな、労働相談の受け皿作りというのをどうやったらいいかなと思って。一つは3階とのパイプを強くしておくことですよ。3階のパイプを強くすることはメリットがあるんですよね。弁護士に相談しにくい鮮度のいい事件をセレクトしてくれる、法律上難しい問題もあるけれども。
F:労基署経由が多くないですか。労基署行ったら弁護士のところに行けと言われてきましたみたいなのがすごく多いです、私ほとんどそれだと思います。

PT:「労基署では計算できないので」みたいな。

M:労基署でパブリックに行きなさいと言わないやろ。
F:いやどうなんでしょうね。近いからなあ。

PT:それに近いことは言っているんじゃないかなと。ただ労基署にパンフレットおかせてくれないでしょ。

F:それは無理でしょ。

PT:弁護士会は置いてくれています。労働と生活に関する法律相談について。

F:労基署経由の相談は増えてきていると思います。みんなたぶん、何の問題にせよ、とりあえず一回いってみようってなるのでしょうね。

PT:あと労働事件は類型が多いので、もう少しホームページを充実させて類型の解説をしていきましょうか。

M:よくある質問とか?Q&Aとか?
F:確かに。
M:あるいは成功事例とか?結局その11件でだけども、勝っているのは全部解決金ですよね。少ないのは数十万円から多いのは5、600万まであるんだけども、3回で勝負ならまあいいかなって言うかペイするかな。

PT:あと実は刑事事件とも割とつながってくることが多いと思うんですけど。

M:どうして刑事事件とつながるの?

PT:例えば(相談者が)会社のお金を持ち出していて、一発懲戒解雇だけど重すぎるとか、あるような気がしている。

M:業務上横領と解雇とか。

PT:刑事の分野に詳しい弁護士っていうのも必要とされているような気がしますね。

F:確かに。
M:今出てきたのはパイプを強くすること、利用しやすくすることと、監督署系(経由の相談)が多いのと。この統計は労災事故(案件)が入ってないけれども。労災なんかも多いんですかね。

PT:労災なんかも多いですね。津山は。

M:労災申請までやるの?

PT:労災申請をしたこともありますし、労災申請後の損害賠償請求もあります。申請して処分を受けて取消の審査請求とか。

M:難しいでしょ、労災は。

PT:特に精神の案件は難しい。

M:診断書も含めて基準がややこしいし。

PT:残業時間の立証とかということになりますね。ただ労災で労基署に調べてもらうと結構いろいろ事実が上がってくるものだなあっていうのは思いました。労基署の調査がある程度時間はかかりますけど。

M:山陽新聞の三宅記者が、今年の3月4月に山陽新聞で長時間労働の実態を上中下で3回の連載で記事を書いたんですね。その時に何度か三宅記者が来て取材を受けたんですけど、さっきの長時間トラック運転手の案件も含めて、なかなかうまくまとめて書いてあったよ。

PT:時間が超過してしまったのでこれで終わりにしましょう。

M:なかなかうまくいかないもんだね(笑)。


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