離婚相談座談会

離婚相談座談会 (開催日:2016年3月23日)

PT:
1. 離婚の相談を受けるにあたって,心がけていることは何ですか?
2. 当事務所における離婚相談の専門性とは何ですか?
3. DVや児童虐待がからむ案件における工夫や心がけは何ですか?
4. 依頼者の負担として大きいこととそれに対して弁護士としてできることは何ですか?
5. 離婚の相談を積極的に受けるための工夫は,どのようにしていますか?

<1 離婚の相談を受けるにあたって,心がけていることは何ですか?>

PT:まずは簡単な自己紹介をお願いします。

吉川(以下,「Y」): 岡大支所長の吉川です。

PT:もう少しお願いします。

Y: もう少し。経歴とかですか。私は,あの平成何年だっけなぁ。平成18年に岡山パブリック法律事務所に入りまして,1年間養成していただいた後に,鹿児島県の指宿市というところの法テラスに就任しました。そこで3年間の任期が終わり,またパブリックに戻ってきた,ということです。

PT:次は,藤井さん。

藤井(以下,「F」):64期の藤井嘉子といいます。私は修習が終わってから,すぐパブリックに来て,4年間弁護士しています。うちの事務所は本当に好き勝手さしてくれるので,司法福祉ネットとか好き勝手やっています。★藤井弁護士は,平成28年3月31日に退職しています★

PT:じゃあ,早速本題に入っていきますけど,事前に質問を5つ伝えていますが,5つにとらわれないで質問していこうと思います。最初は,離婚の相談をうけることはよくあると思いますが,大体どういうことを心がけているか,というのを教えて下さい。

Y:まず,本当に離婚したいのか,というところを最初によくお聞きするようにしています。離婚の相談をされる方が,どっちか,旦那さんの方なのか,奥さんなのか,どういう理由で離婚しようと思っているのか,出来るだけ最初の段階でなぜ離婚をしたいのかっていうのを詳しく聞き取るようにして,それがもう動かないということになった段階で,次の話に進むということで,最初の段階は,とにかくよく話を聞く,と。なぜそういう状況に至ったか,ということを心掛けています。

PT:離婚をする気があるかないか,っていうのは,意外とそこを悩んでいる依頼者も多いということですかね?

Y:そうですね。まぁやっぱり迷っている方も結構います。奥さんの不貞が発覚したんだけども,自分は分かっているんだけども,お子さんもいるし,離婚していいのかなぁ,というような相談もありますし。逆に奥さん側からしても,経済的な面で,本当にこのまま離婚しちゃっていいのかな,という形の相談もあるので,そこらへんは最初によく聞くようにしています。

PT:その迷っている段階で相談に来るということは,それも弁護士としてのアドバイスはして,離婚しないっていう結論に達する人もいるってことですか?

Y:そうですね。経済的な面で,今すぐ離婚しない方がいいのではないか,と明らかに思われる方もおられますし,特に奥さん側に多いですけど,お子さんがいらっしゃるとなかなかふんぎりがつかない方も多いのは事実だと思います。

PT:藤井先生はどうですか。

F:吉川先生の仰る通りかなと思います。どうしても離婚したいですってご相談に来られた時に,もし離婚したらどうするっていうことは,やっぱりよくよく話し合って,イメージをつくって,その上で「よしやっぱり離婚する」というふうに思えるかが大事だと思うんです。特にお子さんを連れていらっしゃる方だと,子どもをどこで育てるのかとか,経済的な基盤ですよね,お子さんが体調を崩したときに誰か見れる人いるか,とか。収入どうするか,今の生活水準でいけるのかどうかとか,そういうことを考えたうえでじゃないと,離婚するしないっていうのは決められないというのが,実際あると思っていて。相談に来られる段階っているのは皆さん,トラブルの渦中にいて,いろんなことがぐちゃぐちゃな状態で来ますから,ちょっと弁護士が相談にのるときに,ゆっくり話を聞いて,そのあたりの整理というか,交通整理みたいなことが出来るといいのかなぁ,と思ったりはしています。

PT:決意が固くても,タイミングが良くないこともありますもんね。離婚の相談に来られる方って,周りの人に相談してから来る人もいるし,インターネットで調べてくる人もいると思うんですけども,誰にも相談せずに来られる方もいらっしゃいますか?

F:おられるのは,おられる感じはします。
Y:そうですね。ただ,インターネットの情報だと信用性がそれほどない,一応知識としてはあっても,自分の心の整理をするには十分な情報はじゃないってことで,直接弁護士に話を聞きたい,ということで来られる方もいらっしゃるのかな,という感じはしています。確かにある程度,年配の方だと,そのまま来るっていうこともまぁまぁあるかもしれませんけど,比較的若い方だとインターネットとかで,それなりに情報を得て来られる方もいるとは思います。最後に自分の決心をするにあたっては,弁護士に直接話を聞きたい,ということで,来られるのかなぁ,と。

PT:僕の経験則的には,結構迷っている人は多いという印象はあって,「裁判して下さい」っていう感じではなくて,どういう感じで進むのかが知りたい,という相談も多いと思いますが,そういう印象はありますか。

Y:そうですね。流れだけ知りたいっていう人もいるのはいますね。

<2 当事務所における離婚相談の専門性とは何ですか?>

PT:次の質問に移ります。岡山パブリック法律事務所における離婚相談の専門性は何だと思いますか。

Y:それ難しいなぁ。

PT:離婚相談を専門にしている弁護士さんも多い中で,インターネットによる知識も普及しているというところではあると思いますが,この事務所だから出来る,というような観点とかって,何かありますか。

F:DV系だと特にですが,うちは社会福祉士が中にいるっていうことと,福祉関係の人たちとは,日ごろ付き合いがある方が多いので,そういう意味では,どういう風に逃げようとか,逃げた後どうしようか,あるいは,子どもさんが不安定になったりするということもあるので,どう対応しようか,と言った時に,うちだとその問題について内部で社会福祉士に相談して,福祉の観点から意見をもらうってこともやりやすいですね。逃げ先とか,支援先になりうるような人たちとつながりやすいというのがあるのかなぁ,と個人的には思ってますけど。吉川先生,どうでしょうか。
Y:パブリックの特殊性でいうなら,DVとかそういう案件が比較的相談が来やすいのかなぁ,とは思いますね。
F:私はやったことないですけど,お子さんの親権について,社会福祉士に意見書を書いてもらったと,本部(春日町)の弁護士が言っていました。そういうことが出来ていく可能性はあるのかな,とは思いますね。お子さんの養育状況がどうなるか,というのは離婚する際に必ず大事になってくることだと思いますので。

PT:民事事件と違うのは,夫婦関係だけではなくて,親子関係も出てくるし,嫁姑関係も出てくるし,人間関係が複雑だという前提が多いかな,と。そうした中で,一度離婚をするとこれまでの生活の前提が変わってくるので,その生活自体をどう立て直すかというところをトータルで見ていけるというところは,現時点でもある程度先進的に取り組んでいるかなぁ,とは思うんですけど。まぁ,先にやるべきことがたくさんあって,面会交流であるとか,子の引き渡しに関する子の福祉を実現していくか,とか。そういったところは,色々模索中ってことですかね。

Y:そうでしょうね。パブリックとしては,パブリックらしいあり方としての離婚に関しての専門性をどういうふうに考えるのか,というのはさらに検討していくとこではありますね。

<3 DVや児童虐待がからむ案件における工夫や心がけは何ですか?>

PT:では次の質問です。当事務所は,困難案件が多い方かな,と思うんですけど,DVとか児童虐待とかが絡んでくるような案件は,どういったところを心掛けてやられていますか。

Y:DVもなかなか,難しいです。どういう風に言ったらいいかなぁ。私はDVをした側の夫の離婚というか,面会交流の案件をしたこともありますし,逆に妻側の案件もやったことがありますが,やっぱりDVが絡むと,面会交流をするにしてもすごい感情的なものがあって,非常にやりにくくなります。そういう事件じゃない場合には,比較的すんなり面会交流とかも決まりやすいんですけど。財産分与については,多少揉めるにしてもですね。だからDVがあると,顔も見たくない感じになっちゃうんで,なかなか調整するのが難しいという感じです。

PT:藤井さんは。

F:DVの事件や虐待の事件って,法的な意味で,あるいはその人の動きって意味では,一気に早くバッと動かなくちゃいけないことが多いのかな,と思っていて。そういう意味では,やるよって決めてしまったら,その先一週間ぐらいで,いかに早く,慎重にサクサクやるかがすごく大事になってくるので,なんかこうバタバタっとやるんですが,それをやっていると結構,バタバタしているままに動いてしまって,動いている本人の気持ちがあまりついていってない状態で手続きをしてしまった,ということが結構あるのかな,と思っています。動いているときはいいんですけど,少し時間ができたり,落ち着いたときに,本当にこれでよかったのだろうか,と考える方は多いと思っていますし,それは人間だから当然のことだと思うんです。なので,そういう時に気持ちがついて行かないとか,置いてけぼりになってしまわないようにっていう意味で,弁護士の方からも「今,どう?大丈夫?今どう思ってる?」と,手続きは慎重に早くしながら,ただ気持ちの部分に寄り添う,というか,その部分ではその人のペースに合わせてみたいな,工夫は出来るように,とは思って気をつけているつもりです。そうは言っても,どうしても弁護士としては,離婚事件を受任した,と思うと,「離婚離婚離婚」というふうに,ついついなってしまうので,あとで「やっぱり・・・」という話が出てきたときに,なかなか本人の気持ちの部分の汲み取りというのが下手くそだなぁ,と思う部分があって,気をつけるようにしながらやらないといけないなぁ,と,日々思っています。

PT:相談段階と,事件として受任してからという段階と違い,というのもあると思うんですけど,疲弊してくるわけですよね,依頼者が。かなり。

YF:うん。

PT:悩んでから相談に来るパターンが多いので。特に暴力がある事件なんかだと,そういう疲労感が顕著になってくるから,その辺をどう向き合うかというのは工夫されてる,という感じですか。

F:そうですね。所詮,弁護士は法律の専門家にすぎないので,そのあたりは所詮素人なので,周りの人にいかに助けてもらうか,というか,支援できる人をいかに増やすか,ということが大事なのかな,と個人的には思っています。

<4 依頼者の負担として大きいこととそれに対して弁護士としてできることは何ですか?>

PT:受任してから,ということにはなるかと思いますが,そうとも限らないか。依頼者の負担が大きいんじゃないか,と感じることと,それに対して弁護士として対応していることはありますか。

Y:依頼者として負担が大きいところ…

PT:精神的・手続き的・経済的等ありますが。

Y:私は基本的に受ける場合には,話合いが出来ない,と判断して,すぐに調停を申し立てることが多いかな,と思います。DVがあると,もうすぐに(手続きを)します。あとは,財産分与等で揉めているときも,話し合いは難しいな,と思ってすぐ調停を申し立てます。すると,一応手続きにのっちゃうと,依頼者も相手方もそんなに精神的な負担はないのか,と思ってますね。ただ,調停のために毎月1回(裁判所に)行ったりするのと,訴訟のために陳述書を書いたり,尋問に行くとなると,負担は大きくなると聞いていますけど,ある程度は,仕方がない,ということを説明するようにしています。

PT:手続きに早く乗せて,軌道に乗せるというか,そういうところが負担の軽減という意味でも大事ということですね。藤井さんはどうですか。

F:ちょっとした書類を取ってきていただくとか,ちょこちょこした手間,特に役所関係や銀行関係など,平日の昼間しか取れない書類を,代理人がやるとかえって手続きが煩瑣になるので,ご本人で取ってきていただく方が早かったりして,そういう書類を取ってきていただくのは,結構,仕事や子どもを持つ方からすると大変なんだろうなぁ,とは思っています。また,先ほど吉川先生が仰られたように,調停に行くのも,平日しかやってないし,開廷日も決まっていて,出廷したら2~3時間拘束されるので,時間的な制約が大きいのかな,と思っています。皆さん,仕事も抱えておられる中で,有給なり使っておられるので,きついものはあるだろうなぁ,と。休みを取りづらい方もおられるので,大変だなぁ,と。陳述書を作るのも,辛かった場面を逐一思い出していただくので,それを言語化するので,やっぱり,すごくしんどそうな表情をされる方も多いですし,そういう意味では離婚手続きってご本人にとっても精神的時間的な負担がすごく大きい手続きだろうな,とは思っています。少なくとも現行の制度の下で,「じゃあ調停は私が代わりに行くから行かなくていいよ」,とはいかないので。弁護士にできることといえば,自分がやるべきこと,ご本人との関係でやるべきことについては,できるだけ効率よく,その人の気持ちが伝わるように,言い分が伝わるように,最終的な結論というのが,こういう解決になったよ,というのが本人やお子さんにとっても納得感があるような解決に向かうように,自分がやることを頑張る以外に特にできることがないんかな,とは思っています。精神的不安を減らすって難しいですよね。ごめんね,と思いながらも,きついことも聞かざるをえないですし。
Y:結局,過去のことを思い出すわけで。例えば,残されたメールのやり取りを全部写真で撮ってきてほしい,っていうのも,それはそれで精神的負担があると思いますし。
F:まして,このメールはどういう趣旨なのか,とか説明してもらったりするのは,泣かれたりする方もいらっしゃいます。

PT:訴訟になれば,陳述書をつくりますよね。陳述書を作る際に何か工夫していることはありますか。

Y:陳述書では,基本的には,大枠を書くようにして,伝えたいことは,法廷でしゃべってもらう,という形にはしています。書かないとまずいことは,陳述書で書いておき,伝えたいところは,その場で,尋問の場で話していただく,という形ですね。
F:陳述書つくる段階は,打ち合わせも何回もさせてもらっている場合が多いので,さらに,ご本人から一から聞き取ってということになるとしんどい,と思いますから,ある程度こちらの方で今まで聞き取った事情を総合したようなものを,早めに作っておいて,「こんな風にやろうと思うんだけどどうかな」,と示せるようにはしています。間違ってたりするんで,一緒に一文一文訂正しないといけないですけどね。あとは,いまだに陳述書の分量が分からないですよね。裁判官は,短い方がいいとは言うけれども,離婚って本人は言いたいことがたくさんあって,「あれもこれもいいたい」という感じです。どこまで書くべきなんですかね。吉川先生,どうされてますか。
Y:基本的には,本人が言いたいことや書きたいことは書くようにはしてますが。あんまり感情的で,ここまで書かない方がいいんじゃない,っていうところは,本人に言って削ることもありますね。

PT:僕の場合は,最近やっているのは,訴状提出のような早い段階で陳述書を出すようにしていて,言いたいことめちゃくちゃあるから,陳述書の項目だけつけて渡して,ここに書いてきて下さい,と。で,それを取捨選択して,文章化して,読んでもらって,サインしてもらう,というのを最近していまして。なぜかっていうと,言いたいこと全部出せる,というのが一つと,早い段階で,この人が何を訴えたいかを把握できる。それと,聞き取りの場面が精神的負担だと思うので,その時間を減らせるというので,訴状に陳述書をつけるために,書いてきて下さい,というスタイルをよくやっています。

Y:訴状提出段階で陳述書を書くこともしてたんですけど,徐々に主張が微妙に変わってきて(笑)

PT:でも,通常の民事よりかは,変遷しづらくないですか。依頼者自身の中にあるものだから,全部吐き出してもらって,最初に詳しめの陳述書を出しておいた方がいいのかなぁ,と最近僕は工夫しています。

Y:それは,一般民事とは別にしているということですか?

PT:それは,争点整理進んでこないと余計なこと書いてしまう可能性があって。

F:それです!

PT:リスキーだから。なるべく粘って出さない,という。和解で済めば出さなくていいし,という。

<5 離婚の相談を積極的に受けるための工夫は,どのようにしていますか?>

PT:さて,もうあとのこり時間が少なくなってきましたが。最後の質問は少し変えて,経済的なところ,要するに依頼者の経済的な負担のところを聞きたいんですけど。まず,弁護士費用が掛かるというところの経済的負担はあるんですけれども。離婚とは,大雑把に言うと,そもそも離婚するか,と,子どものことどうするか,とお金をどう分けるかを決めるわけじゃないですか。この経済的なところ,慰謝料であったり,財産分与であったり,年金分割であったり,というところについては,どういう工夫というか,費用面と訴訟物的なところについて,どんなふうにされていますか。

Y:分ける財産がいっぱいある方については,そんなに負担はないのかぁ,と思いますけど,実際にパブリックに来られる方は,そのような方は稀かな。だから,どっちかというと取れても,本当に数百万円とかいう感じで。すると,基本的には法テラス利用ということになることが多いかなぁ,という感じですね。
F:仮処分とかを出来るときは,早めにやったほうがいいな,というのはすごく思います。婚姻費用とかって,仮処分かけたら任意に払ってくれることもあるじゃないですか。旦那さんの方が。だからやっぱりある程度,ちゃんとやらないといけんな,というのはいつも思ってはいますけど。
Y:私は過去に離婚で,もうすぐ退職しそうだっていう人の件で,過去2回受けて,それはもうそろそろ退職しそうだ,という情報が入ったので,仮差押えをかけて,保全しておいて調停をゆっくり行った,というのと,もう1件は,もう既に会社を辞められている件でしたけど,まだ支払われる前だったので,仮差押えをかけました。

PT:その2件はHPでは使いづらいですね(笑)離婚で法テラスを使うとき,費用の説明ってどうされてますか。

Y:費用の説明は,机に常備している法テラスの基準表を示して,分割でだいたい月5,000~1万円(原則として1万円,5000円が認められることも。)の返済をしてもらう形になりますよ,という説明ですかね。基準表を示して「これぐらいの金額になると思います」と「報酬としては何パーセントぐらいになると思います」という説明と,あと月々の償還の額がこれぐらいになりますよ,っていう説明ですね。
F:今,離婚の事件に親権とか財産分与をつけてやるときって,それ1個の事件になるんですよね?法テラスを使うとき。
Y:そうですね。
F:そういうのは,一括にというか一緒にできますよ,というのと,ただ,調停から受けるときには,訴訟になったらまた+αで費用が発生しますよ,みたいな話をするぐらいですね。

PT:当事務所は,離婚の手続きを行うにあたって,法テラスを使う割合が多いですか?

F:だと思います。法テラス以外にやったことほとんどないです。たぶん片手で数えられます(笑)

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