「阿仆大(アプダ)」和淵(He Yuan),2010年

中国雲南省北部の少数民族である納西(ナシ)族のアプダとそのお父さんのドキュメンタリーです。
とにかく固定カメラで長回し,しかも,狭い家の中でアプダのベッドとお父さんのベッドのカットがほとんどで,145分と長めの映画なのですが,1秒も眠くありませんでした。
といっても,予備知識なしで観たこともあって,アプダが疲れてボーッとしたり,起きて眠そうにしたり,お湯沸かしたり,松脂とりに行ったり,ベッドには服が積み重なったり,それなのに「暇がない」って言ったりで,何だかだらしない人に見えて,監督がどうしてこの人に興味を持ったのかイマイチ分からない時間が続きました。
しかし,ずーっと観てると,アプダがお父さんの足を伸ばしたり服を着替えたり体を洗ったりする「介護」の時間は言葉はないんですがものすごく濃密なシーンで,しかも,誰もいないベッドを映しつつ隣で行われているお父さんとアプダの様子を音だけで表現することで感情を増幅する演出だったり(音におそろしいほどこだわっているのがよく分かりました。),また,狭い室内に撮影している監督がいるはずなのにアプダやお父さんは全く気にしてない様子(来訪した叔父さんはカメラを意識してました。)を観て,監督とアプダとお父さんとどれだけ膨大な時間を積み重ねて信頼関係を築いたのかと思ったりしながら,じわじわとアプダ,お父さん,監督の関係に溶け込んで行って,もうアプダやお父さんが愛おしくてたまらなくなってきました。こんな経験は,初めてペドロ・コスタの『ヴァンダの部屋』を観たとき以来でした。和淵監督はロベール・ブレッソンを敬愛していることを明言されていますが。
そして,ラスト30分は本当に素晴らしくて素晴らしくて,特に花の指輪のシーンなんて,もう涙が止まらなくて止まらなくて,終わっても思い出しては涙が出てきました。生きているうちにこんなに素晴らしい映画に出会うことができて,本当に本当に幸せです。
あまりに感動してしまったので,カフェで監督と偶然お会いしたときに握手を求めてしまいました。
今後,この映画がどこかで上映されるかどうか現段階で分かりませんが,ぜひ多くの人に観て欲しいと思います。

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所属:津山支所